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「ドラゴン・タトゥーの女」を見ながら、モザイク問題について考える [辛口コメント]

「ベンジャミン・バトン」「ソーシャル・ネットワーク」と、
ここのところD・フィンチャー作品離れが続いていましたが、新作「ドラゴン・タトゥーの女」は、フィンチャー初のリメイク作品&サスペンス回帰ってことで、久しぶりに食指が動き、今回は劇場鑑賞してきました(^皿^)。
 
        『ドラゴン・タトゥーの女』 
      ( 原題:The Girl with the DRAGON TATTOO )
 
 監督:デヴィッド・フィンチャー
 原作:スティーグ・ラーソン著「ミレニアム〜ドラゴン・タトゥーの女」
 出演:ダニエル・クレイグ        ....ミカエル/有能な雑誌記者
    ルーニー・マーラ         ....リスベット/覆面調査員
    クリストファー・プラマー     ....ヘンリック/ヴァンゲル財閥の元会長
    ステラン・スカルスガルド     ....マルティン/同上の現社長
    ロビン・ライト          ....エリカ/雑誌ミレニアムの編集長
    ヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン....ニルス/リスベットの後見人
    スティーヴン・バーコフ      ....ディルク/ヘンリックの顧問弁護士
    他
  
 
作品に関しては、ソネブロでもすでに色んな方が述べられているので割愛しますが、
結論から言うと久しぶりにフィンチャー節を堪能出来た作品でした。
まず、いきなり冒頭のオープニングからヤラレれました。名曲「移民の歌」にのせてタイトルロールが始まるや否や、これでもか!と溢れ出すビジュアル・イメージの数々。これがもう、ものすごくかっこ良くてシビれました。フィンチャー監督曰く「アレはリスベットの悪夢を映像化したもの」とのことですが、悪夢というにはあまりにも美しく魅力的で、もうこの映像だけ30分くらい続けて見ていたい!という衝動にかられました。
 
残念ながらミステリー物としては特に目新しいものはなく、犯人なども割とすぐに想像出来るような展開でしたが、それでもスウェーデンの寒々しい風景とか、殺人鬼の部屋の冷たい感じとか、リスベットがレイプされる時の俯瞰から見つめる渇いた嫌〜な感じとか、リスベットに攻撃されて顔面が破壊された時の犯人の顔とか、随所に見られるフィンチャー演出が実に魅力的で、2時間たっぷりとフィンチャー節を楽しむことが出来ました。
何よりもリスベットを演じたルーニー・マーラがとにかく素晴らしく魅力的でした!。
この映画はダニエル・クレイグ演じる雑誌記者ミカエルの登場から物語の幕が明けますが、蓋を開けてみれば紛れもなくこの映画の主人公はリスベットそのものでした(ダニエル・クレイグ演じるミカエルなんて、特に魅力的な人物でもない)。
他人とのコミュニケーションをとるのが苦手で、幼少の頃より過酷な環境で育ってきたリスベット。秀でた記憶能力とコンピューター操作に長けた彼女は、雇われ調査員の仕事で生計を立てています。パンクロック姿に身を包み、終始うつむき加減で、繊細さと内に秘めた狂気とを、ルーニー・マーラは文字通り体当たりの演技で熱演していました。映画の前半で女性としてはかなり辛い仕打ちにあう彼女ですが、その彼女が反撃に転じるところなどは、思わず「よくやった!」と応援せずにはいられませんでした。この感覚は以前「猿の惑星:創世記」でシーザーを見ていた時に感じたものと似ていました。虐げられてきた者が遂に反撃した時に感じるカタルシス....リスベットの魅力に完全に魅了された2時間でした。
先のアカデミー賞では主演女優賞をメリル・ストリープに持っていかれましたが、オイラ的には肉体的にも精神的にもタフさを要求されるこの役を見事に演じきった彼女に、是非オスカー像を渡したかったです。(メリル・ストリープが偉大な役者だってことはもう皆わかりきってるし、今更オスカーなんて渡す必要なし。そもそもストリープ受賞なんて、当たり前すぎてつまらん!)。
 
 
さて、ここからが本題です。
作品を劇場でご覧になられた方はすでにご存知のように、この作品ではある場面で画面上にモザイクがかかる場面があります。それは物語の中盤、ダニエル・クレイグ演じるミカエルと、ルーニー・マーラ演じるリスベットがSEXをするベッドシーンでのことです。
一応簡単に場面を説明すると....
事件の調査途中で命を狙われたミカエルは何者かに銃撃され額に大けがを負ってしまいます。それを応急処置したリスベットは、不安に陥るミカエルを横目に見ながら、おもむろに全裸になりミカエルのベッドに潜り込むとセックスをし始めるのです。最初は戸惑うミカエルも結局はことに及ぶ訳ですが(男だもんね♪)、結果的に脅えていたミカエルは精神的落ち着きを取り戻すことになります。
....と、このベッドシーンで最近では見たこともないような、とても大きなモザイクが画面いっぱいに広がりました。そのことにオイラは唖然としてしまったのです。
 
とにかくもう、本当に興醒めするようなモザイクでした。
せっかく映画の世界に没頭していたのに、画面上に広がる無粋なモザイクのおかげで急に現実世界へと引き戻されて、もう怒り心頭でした。確かに激しいセックス場面ではありましたが、あれほどまでに大きいモザイク処理が果たして必要だったのかな?と疑問でなりません。恐らくダニエル・クレイグかルーニー・マーラの性器かアンダーヘアが映っていたための処理だったと想像しますが、それにしてもモザイク処理が大きすぎます(スクリーンの1/3は隠れたであろう大きさ!)。そもそも今時性器が映ったぐらいで大騒ぎするようなヤツはいないし、そんな人は最初からフィンチャー作品なんて見に来ないですよね。
 
昔に比べて性器の描写に関しては、割と寛大になったのでは?という認識でいました。
例えば「サイドウェイ」や「ハングオーバー」でも成人男性のフルチン映像にモザイクはなかったし、「ウォッチメン」でもDr.マンハッタンのモノ(CG性器だけど)は堂々と映っていました。
無論、ただ性器が映るのとベッドシシーンやセックスシーンで性器が映るのとでは意味合いも違ってくるとは思いますが、それでもセックス場面で性器やアンダーヘアが映ったとしてもそれはしごく当たり前の映像なのに、それをことさら「これは見てはいけません!」と強調することに果たして何の意味があるのか?、まったくもって理解不能です。別にAVのようにことさら性器を強調して見せている訳でもないのに、ちょっと過剰に反応しすぎなのではないでしょうか?。
 
そもそも、あのセックス場面は単なる男女の情事を描いている訳ではありません。
他人とコミュニケーションをとる能力が著しく欠けているリスベットは、ああすることでしかミカエルを精神的に落ち着かせることが出来ないという、ある意味悲しい場面でもある訳です。動物的本能でしか他人とのコミュニケーションをとることが出来ないリスベットの悲しい部分を描いた重要な場面であり、だからこそ、映画のエンディングでの失恋場面がとても切なく感じられるのです。そんな重要な場面でたかだか性器やヘアがちょっと映ったぐらいでモザイクをかけてしまう、この国の文化的レベルは本当に低いと言わざるをえません。
 
そもそもモザイクと言えば聞こえは良いですが、あれは単なる“キズ”に他なりません。
フィンチャー作品でボカシと言えば、とても苦い思い出があります。それは彼の代表作でもある「セブン」でのことです。映画の冒頭、大食の罪で殺された被害者が警察の検死室で横たわっている場面で、彼の性器にボカシが入ります。背景にちらっと映るだけなのに、ボカシを入れることでかえってそこに注目が集まってしまうという逆効果ボカシに、オイラは当時とても憤慨したのを今でも覚えています。
しかも、あの死体....作り物(ダミー)だったというのに!。
(おそらくボカシを入れる指示を出したどこかのお偉いさんは、アレが偽物だということにすら気がついていないと思う)
 
こちらは商品にお金を払って鑑賞しているのに、何の断りも無しに唐突にキズ物を見せられるのはとても不愉快だし、納得がいきません。せめて映画館サイドは前もって「この作品にはキズ(モザイク)がありますよ」ってことをきちんと明示するべきです。
何よりオイラはルーニー・マーラやデヴィッド・フィンチャー監督に申し訳がありません。ルーニー・マーラは文字通り体当たりの演技を披露し、フィンチャー監督は本来オブラートに包むような場面も逃げずに正面きって演出してる....そういったある種の覚悟を決めた仕事を、ああいった形で傷つけられる事が、本当に不愉快でたまりません。僭越ではありますが、D・フィンチャー監督作品のファンやルーニー・マーラのファンを代表してオイラが謝罪しておきます。
 
 デヴィッド・フィンチャー監督、そしてルーニー・マーラ様、
あなた方が魂を込めて作った作品をこのような形で傷つけてしまい、本当に申し訳ありませんッ!
 
 
この国で映画はいまだ芸術ではないのでしょうか?。
例えば、ヌードを描いた絵画にモザイクをかけて展示するなんてことはしないですよね。ダンテ像が性器丸出しだからと言って、下半身に布をかけて展示したりするでしょうか?。
映画ファンは、今回のモザイク問題についてもっと怒りを露にするべきだと思います。
映画という芸術を検閲無しで見られる日が実現するように切に願わずにはいられません!。
 
 
 
 
「....モザイク、消去しちゃっていい?」「許す!」
リスベットとオイラ.jpg 
 
余談だけど、今作のプログラム(パンフレット)についてもひと言だけ。
本プログラム、デザインはおしゃれで申し分ないし、インタビュー記事なども実に読み応えがあって充実した内容。それでいて600円とかなり良心的で好感が持てる商品となっています。
だけど、ひとつだけとても不満な点がある。それはキャラクター相関図のページだ。
ミステリー物は基本的に人物関係が入り組むものが多いので、こうしたキャラクター相関図は物語を解釈するのにとても重宝する訳だけど、今プログラムの相関図には及第点をつけたい。映画館で実際にプログラムを購入された方は、是非実際にページ(P10〜11)を開いて見て欲しい。さあ、コレを見てあなたはキャラクターの関係性がひと目で理解出来ますか?。プログラムをお持ちでない方のために一応説明すると、見開きでキャラクターの名前と簡単な説明が文字のみで羅列されているだけ(写真はミカエルとリスベットのみ)。地図はあるけど地名が2つのみ表示されているだけで、例えばどのくらい距離が離れているのか?といった具体的な説明もない(同比率の日本地図とか付ければいいのに)。
要するにやっつけ仕事の感が否めないのである。
 
オイラはこのページを構成された方に是非お聞きしたい、「あなたは映画をご覧になられましたか?」と。映画を見ればわかるように、雑誌記者ミカエルは調査の過程で登場する人物を、写真入りで記したメモを壁に貼っていく。そう、ミカエルもまた作品中で人物相関図を作っていくのだ。オイラもミステリー小説を読みながらキャラクター相関図を作ることがたまにあるが、その時には必ずキャラクターのイラストや各キャラの間に矢印などを付けて関係性をわかりやすくすることにしている。そうした方がビジュアル的にわかりやすいからだ。ミカエルが画像入りでキャラ相関図を制作したように、なぜこのページを担当された方は同じやり方を踏襲しなかったのでしょうか?。
はっきり言ってプロの仕事としては、完全に失敗作です。
 
でも一番問題なのは、この記事にOKを出した上司の方かもしれません。
是非その方にお聞きしたい。
「文字だけが無機質に羅列されたこのページを見て、あなたは各キャラクターの関係性を明確に把握出来ますか?」
 
「ミレニアム」のロビン・ライト編集長なら、「これじゃ、読者にはわかりにくい、構成をやり直せ!」と、きっとダメ出ししてると思うけどな。
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うつぼ

サイドウェイズ。(^_^.)
この作品、見てないんですが、観た人に「前時代的な巨大モザイク」って
聞いてどんだけでかいモザイクなんだと思ってましたが。。
先日、ヴィンセントギャロの「ブラウン・バニー」って映画を観たときも、
モザイクがすごかったのですが、それでもかなり何やってるかわかって
オヨヨヨな気分になりました。映画の気分を損なうほどのモザイク、、
せめてdvd化の時は見直してほしいものですねぇ。。

by うつぼ (2012-03-24 17:55) 

堀越ヨッシー

うつぼ姐さん、こんにちは。
「サイドウェイ」....オイラと姐さんがソネブロで知りあうきっかけとなった作品ですね(^皿^)/ナツカシー。余談ですが、サイドウェイの監督さんの新作「ファミリー・ツリー」はすごく評価が高い作品らしいです。ジョージ・クルーニー好きなので、見てみたい作品ですね。
 
「ドラゴン・タトゥーの女」、モザイクの件は別にして、恐らく男性と女性とでは映画から感じる印象が大きく異なるのでは?と思います。まだ上映してるようなので、機会があれば是非。
 
あとギャロは....苦手です(^皿^;)。
by 堀越ヨッシー (2012-03-24 18:11) 

inuneko

モザイクにもパンフにも同意です。
by inuneko (2012-03-24 22:54) 

堀越ヨッシー

inunekoさん、こんにちは。
同意、ありがとうございます(^皿^)。
by 堀越ヨッシー (2012-03-25 20:13) 

dorothy

毎度ご無沙汰(?)です。
あのデカいモザイク、かなり引きの絵でもかかってて、そんなに遠くて薄暗いのにどんなスゴイものが写ってるっていうの?ってかえってイヤラシイ気持ちになってしまいました。
六本木ヒルズでモザイク無し版が上映されたみたいですが、観た人曰く「なんも見えなかった」らしいですよ。じゃあいったいなんだったんでしょうねえ。
もしかしたらDVD発売の時に「無修正版」とか言って売ろうという魂胆かも?と思いますね。
by dorothy (2012-03-26 05:49) 

堀越ヨッシー

dorothyさん、こんにちは。
えっ!?、無修正版も上映されていたんですか?、それは知りませんでした。出来ればそっちの方を鑑賞したかったですね。とにかく映画の雰囲気をブチ壊しにされたのが一番頭にきた、今回の一件でした。
あと、ルーニー・マーラが本当に魅力的で、帰宅してあわてて「エルム街の悪夢」を見直した次第です(^皿^)。
  
ところで....
「映画甘口案内」はいつ再開されるのでしょうか?。
ツイッターも結構ですが、ブログも是非!(笑)。
by 堀越ヨッシー (2012-03-26 11:49) 

dorothy

ずびばぜん...。再開しようという気持ちはもんのすごくあるんですよ〜。
うん、なんとか来月には。あったかくなったら!w
by dorothy (2012-03-27 05:44) 

堀越ヨッシー

「ダークナイト・ライジング」までには、是非再開を!(^口^)
by 堀越ヨッシー (2012-03-27 23:08) 

アマタロー

はじめまして。
原作ファンで、映画は未見ですが、「興ざめの巨大モザイクに意識が中断される」という内容を聞いて、見る前から、だいぶガッカリしております。映画としてはおもしろいとの評価が一般的なので、いずれは見ると思いますが・・・

しかし、これは本当に審査する側とクレームをつける側の文化レベルの問題ですね。日本の場合、この問題に限らず消費者の声にビビリ過ぎの傾向があって、ときどきやるせない気持ちになります。

問題提起して本質的な改善をしようとせず、とりあえず目先の煙を消すみたいな。日本の文化は概ね好きですが、このあたりは情けないです。
by アマタロー (2012-07-18 17:14) 

堀越ヨッシー

アマタローさん、はじめまして。
ご訪問&コメント、ありがとうございます。
 
私は原作も未読ですし、オリジナル版の映画も未見なのですが、今作は非常に見応えがあった作品でした。是非お薦めします!。
 
モザイクの件ですが、100歩譲ってかけてもいいから、もう少し原典に敬意を払うようなモザイクのかけ方をして欲しいと感じました。「とりあえずモザイクかけときました」的な、お役所仕事的モザイク処理に、怒り心頭でした。映画の仕事に携わりながら、映画愛のない人に遭遇すると、本当にイラッとします。あと、映画館側もこうしたケースの場合、ちゃんと告知すべきだということも、強く感じた次第です。
 
しかし、性器の描写に対して、日本人はどうしてこんなに過剰に反応するのでしょうか?。みんな、普通に持ってるモノでしょ?(^皿^)。
by 堀越ヨッシー (2012-07-20 10:51) 

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