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文学座公演「ぬけがら」を見る〜紀伊國屋サザンシアター [舞台・コンサート]

文学座の若松泰弘さん出演の舞台「ぬけがら」(作:佃典彦 演出:松本祐子)を観劇してきました。
【キャスト】
男(鈴木卓也)........若松泰弘
父1(鈴木卓二郎・84歳)...飯沼彗
父2(60歳代).....鵜澤秀行
父3(50歳代).....関輝雄
父4(40歳代).....高橋克明
父5(30歳代).....佐藤淳
父6(20歳代).....?橋朋典
女1(鈴木美津子)...山本郁子
女2(田中久恵).....太田志津香
女3(鈴木景子).....添田園子
女4(佐藤理沙).....奥山美代子

 
【あらすじ】
ある夏の日...母親の葬儀をすませた翌日のこと。主人公・鈴木卓也は妻からつきつけられた離婚届に判を押すように迫られている。学生時代の女友達との浮気がばれた上に、人身事故を起こして職場を解雇。おかげで心労が重なった母親は他界してしまった。あらゆるものが失われようとしている今、鈴木に残されたものはと言えば、84歳で認知症の父親だけだった...。
その日の夜..失禁した父親をトイレに連れて行き、そのまま眠りについてしまった卓也が再び目を覚ましたのは深夜だった。気がつけば父親の姿が見あたらない...慌ててトイレに駆け込むと、そこにいた...いや“あった”のは“父親のぬけがら”だった!。驚きのあまり大声を張り上げる卓也...そんな卓也に背後から大声が響いた
「うるさい!、深夜なのに静かにせんかッ!、卓也!」
...そこにいたのは、20歳近く若返った父親だった!。そして、日を追うごとに父親はセミのように脱皮を繰り返し、どんどん若返っていくのだった...。
 
 
【感想とか】
久しぶりに見応えのある面白い舞台を見たなー!..というのが率直な感想です。認知症の父親が脱皮を繰り返しながらどんどん若返っていくというシュールな展開がユニーク。様々な年代(60歳代〜20歳代)の父親と息子の交流が実にユーモラスに描かれていて、それが見ていてすごく面白かった。
最初の60代や50代の父親っていうのは、主人公もまだ父親としての記憶が残っているから、お互いが対峙してる時はしっかり“親と子”の関係なんだけど、これがやがて40代、30代となってくるとその関係に微妙なズレが生じてくる。同世代にまで若返った40代の父親(まだ息子が生まれていない時代の父親)が息子を見ながら言う台詞「お前が俺の息子だなんて今いちリアリティがないんだよなあ」に思わず苦笑い。無論それは息子側も同じな訳で、自分の知っている父親像とは似ても似つかない男(チンピラ遊び人風)にとまどうのである。そのズレが傍から見ていてなんとも可笑しいのだ。やがて、これが更に自分より年下の30代になり、果ては20歳代となっていく...そこに存在する父親はもはや自分の知らない父親だ。...もし自分だったらどうする!?...そう考えただけでもドキドキする展開。
 
終盤にそれぞれの父親が一堂に会して食事をするシーンがあるんだけど、これが実に圧巻だった。ちゃぶ台を囲んで冷や麦を全員で食べるシーン...「おい、七味をとってくれ!」「俺に命令するな!」「俺が俺に命令して何が悪い!」「お前が辛いものをとり過ぎたから俺は手術するハメになったんだぞ!」「おいコラお前、一人で食い過ぎだろ!」「自分は若い分たくさん食べなければならないのです!」「配給世代だ、勘弁してやれ!」...などと言った台詞のやりとりが絶妙の間で繰り広げられるのがとにかく可笑しい!。そして、そのやりとりを傍から唖然として見つめる主人公の姿....笑わずにはいられません。
この場面を見ていて、昔「ドラえもん」に似たようなシチュエーションがあった事を思い出しました。のび太の宿題を手伝うハメになったドラえもんが未来の自分(2時間後、4時間後..etc)を現代に連れてきて大勢で宿題にとりかかるというシーン。大勢の自分と悪戦苦闘しながら宿題にとりかかるドラえもんの姿が可笑しかったけど、それに似た感じでした。
 
台詞のやりとりと言えば主人公・鈴木卓也を演じる若松泰弘さんとその妻を演じる山下郁子さんによる夫婦のやりとりもまた、見ていて気持ちが良かった。若松さん曰く「彼女とは何度も芝居で組んでるので、お互いに呼吸があうんだよね」と仰ってましたが、まさにその空気感が舞台上から伝わってくるようでした。山下郁子さんの台詞がすごく自然体で上手いなーと感心してしまいました。あと彼女が酔っぱらって踊るシーンがあるのですが、それがまたチャーミングで魅力的でした♪。
 
 
舞台のエンディング...亡くなった妻を追うかのように亡くなった父・卓二郎。そして主人公・卓也は妻から突き出された離婚届けに判を押す。妻は家を出て行き、ただ一人部屋に残された卓也。窓から差し込む夕日を眺めながら、ポツリとひと言...
「夏は終わった...」
そして、ちらかった部屋を片付け始めるのだった...
 
 
何故だろう...
この短い台詞に胸がキューンとなって、熱いものがこみ上げてきた。
両親はともに亡くなり、妻は家を出ていった...それだけ見るとすごく悲しい状況下なのだけど、でもそれだけではない主人公の姿がそこにはあった。悲しみを背負いながらも、それでも前を向いて歩き出そうとしている主人公の姿に希望の光を見たからかもしれない。主人公もまた己の殻を破って“脱皮”したのだ。主人公が見た夕日はきっと希望の光に溢れた陽の光だったに違いない。
 
シュールな設定でありながら、全編笑いに包まれ、親と子のやり取りに共感し、そして最後はなんとも言えないような気持ち良さを感じて終了した舞台でした。是非たくさんの人に見て欲しい舞台です!。

 
 
 
父親が、どんどん若返っていく...

様々な父親=役者さんと若松さんとのやりとりが楽しい舞台。中でもとりわけ40代の父親を演じられた高橋克明さんとの絡みは最高だった。台詞のやりとりが自然な舞台は、見ていて気持ちがいい!。
 

ぬけがら

ぬけがら

  • 作者: 佃 典彦
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本


改めて本を読み直してみたい

 
追記...どうやらテレビ中継があるらしい。
劇場に行けない人にも是非テレビで見て欲しい舞台です!。


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ゴジラママ

初めての観劇がミュージカルなのでストレートプレイは苦手です
が、ヨッシーさんの【感想とか】読むと観てみたくなります
テレビ中継ってフツーのテレビでも放送するのかな?
そーだったら是非観たいです

父6は柳橋さんと記載されてましたよ
by ゴジラママ (2007-05-15 00:07) 

堀越ヨッシー

かいじゅうたちのははさん、こんにちは。
パンフの記述では、“柳”ではない違う字体だったのですよ〜。なんて字か調べたんですけど全然わからなくて...あえなく撃沈。
 
主役本人から直接聞いた情報なのでたぶん間違いないと思うのですが(苦笑)...たぶんNHK教育での放送だと思います。詳細がわかったらまた記事にしたいと思っています。
是非見て欲しいですね!。
by 堀越ヨッシー (2007-05-15 07:37) 

うつぼ

お父さんが「脱皮」という発想が面白いですね。
脱皮するのはカニやヘビだと思ってましたからね。(笑)
各世代のお父さんが集合して食事する、というのも落語っぽいというか(何でも落語に結びつけようとする私)、想像しただけで笑ってしまいました。
by うつぼ (2007-05-15 21:33) 

堀越ヨッシー

うつぼさん、こんにちは。
設定はすごくシュールなんですけど、お話自体はすごく面白くて、最後にはジーンとさせられました。放送時には是非うつぼさんにも見て欲しいです!。
by 堀越ヨッシー (2007-05-16 08:41) 

最後の台詞を聞くと、何年も土の中にいた蝉が木を登って脱皮して一週間で死んでしまうようなイメージがしました。
賑やかな食卓は夏の蝉の声のようで、現実にもどった彼は脱皮した父との時間や妻との生活など全てを含めて、「夏は終わった」と言ったのかもしれませんね。なんて色々想像してみました。
by (2007-05-16 17:42) 

堀越ヨッシー

Soraさん、こんにちは。
是非是非Soraさんにも見て欲しい舞台です!。
そうそう!桜の写真、綺麗でしたよー♪(^ー^)v
by 堀越ヨッシー (2007-05-16 18:18) 

ゴジラママ

あーもうPC片付けちゃってるよね
明日の夜、NHK教育で放送されるので録画しますッ
by ゴジラママ (2007-07-12 07:27) 

堀越ヨッシー

かいじゅうたちのははさん、こんにちは。
舞台中継、楽しんで頂けたでしょうか?。もちろんオイラも録画しましたよ。
by 堀越ヨッシー (2007-07-24 19:30) 

ゴジラママ

数日に分けて鑑賞しました
面白かったですよォ~
でも、ちょっとウルウルっとしたりして…
ウチも今の内に本気で子供と係わっておかなくちゃと実感してみたり…
今度は一気に観ようと思います
by ゴジラママ (2007-07-24 22:29) 

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