SSブログ

まるでIKEAの家具のようなホラー映画〜「ぼくのエリ〜200歳の少女」を観る [映画鑑賞]

雑誌「映画秘宝」8月号に載っていた一枚の写真。
頭や目、鼻、口から流血しながら、切ない表情で横を向くひとりの少女....その画がすごく鮮烈で、非常に気になっていた映画「ぼくのエリ〜200歳の少女」。
スウェーデン映画という、なかなか観る機会がない国の映画を観るために、先日はるばる銀座まで出掛けて参りました。
 
     「おー、ひさしぶりの銀座であります(^皿^)」
     RIMG0723.JPG 
 
作品を鑑賞する前から本編の内容がすごく気になっていたため、オイラ的には珍しく今回先に原作本を読んでからの映画鑑賞となりました。それが吉と出るか?凶と出るか?....
スウェーデン発のホラー映画「ぼくのエリ 200歳の少女」、果たしてその出来や如何に!?。
 
「ぼくのエリ 200歳の少女」(スウェーデン映画)
【原題:LET THE RIGHT ONE IN(正しき者を中に入れよ)】
監督:トーマス・アルフレッドソン
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
【あらすじ】 
12歳のオスカルは離婚した母親との2人暮らし。学校ではいじめにあい、孤独な寂しい日々を送っていた。そんなある日、オスカルの住む集合住宅の隣部屋にとある親娘が越してくる。少女の名前はエリ。不思議な雰囲気を醸し出すエリと、何故だか意気投合するオスカル。そして2人は友達となる。
一方、エリの父親らしき人物は夜中にひとり出掛けていった。何やらいろんな道具を持って。ホーカンと名のるその男の目的はただひとつ、殺人を犯し、被害者の血を手に入れるためだった....。
 
 
 
今作で脚本も手がける原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストは本映画の原作「モールス」で作家デビュー。原作のヒットにより今や“スウェーデンのスティーヴン・キング”と言われているそうです。今回その原作を事前に読んでいたおかげで映画に対する期待値がけっこう高かったのですが、残念ながら映画はその期待値を上回る出来ではありませんでした。いろいろと問題はありますが、個人的に思ったことを以下に述べてみたいと思います。
(今回はいつも以上に長い記事です、ご了承を)
 
【全体的な印象】 
スウェーデンというお国柄もあるのでしょうか?、作品としては米映画にはない独特の雰囲気を醸し出しており、映像の持つ空気感はなかなか味のあるものでした。この作品は一応ホラー映画というくくりになっているようですが、それをどう受け取るかで作品の評価は大いに変わってくると思います。例えば、芸術性の高いアート系映画が好みの方はこの作品を素晴らしいと評価するかもしれませんが、オイラとしては、単純にホラー映画としては、今ひとつだったかな?という印象を受けました。
その一番の原因は、原作にある“エロ・グロ感”が映画から“そっくり無くなってしまっていた”点....それに尽きると思います。良くも悪くもそれこそがこの物語の肝でもあり、面白い部分でもあるのに、それがかなりの部分で削除されいてすごく残念でした。
全体として説明過多にならないような演出が施されていたような印象を受けましたが、そのおかげで登場人物の関係性が今イチよくわからなかったり、物語の展開が唐突な部分もあったりで、ややアンバランスな印象も。このあたりは原作者でもあるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの脚本に難があったようです。原作から印象深い部分のみをピックアップして、映画用脚本に再構築したような印象で、その物語は客観性に欠け、書いてる本人だけが理解出来ている....そんな脚本に見受けられました。改めて原作ものを映画化する際の脚本作りの難しさを再認識しました。オイラは原作を読んでいたせいもあって、映画では描かれなかった?な部分もフォローしつつ映画を楽しむことが出来ましたが、原作を未読な方は果たしてこの物語をどこまで理解出来たのでしょうか?。
 
【主人公オスカル少年の人間像について】
オスカルは学校でいじめにあっているのですが、その描写が映画版では非常に甘いと感じました。原作ではもっと辛い目にあっています(例えば原作のオスカルはおもらししてもバレないようにパンツの中にスポンジを仕込んでいる)し、そのおかげで鬱積している部分は作品の肝ともいうべき部分なので、そこは恐れず子供特有が持つ邪悪な部分を徹底的に凶悪に描いて欲しかった。見ている側は辛い部分ではあるけれど、それがないとクライマックスの衝撃度と釣り合いがとれません。
更に気になったのがオスカルの容姿。映画版のオスカルは見た目がとっても美しく、それが“いじめられっ子”としてのイメージと結びつき辛かった。オスカルを演じたカーレ・ヘーデブラント君は終始悲しそうな表情を浮かべていて、それはそれでなかなか雰囲気がありましたが、一方で日々のいじめに苦しんでいるという描写に於いてはやや表現不足でした。やっぱりこの役を美少年にやらせたらダメですね。だってカーレ君、流す鼻水さえ美しいんだもん....子供とはいえ金髪は得ですね(^皿^)。
とにかくオスカル役は、例えステレオタイプであったとしても、いかにもいじめられっ子というイメージを持った少年をキャスティングして欲しかった。
 
【映画から削除されたエロとグロ】
まず、エロな部分について。映画ではほとんど説明されることのなかった少女エリと同居人ホーカンの関係。映画を観てよくわからなかった方のために一応説明しておくと....
〈ホーカンは元教師。小児性愛の傾向があり、そのおかげで職を追われてしまう。人生に絶望して死のうとしていた時にエリと出会い救われる。そして、その人生をエリのために捧げる事を誓う。ホーカンはエリのために血を採取してくる代わりに、エリから性的施しを受けている〉
....という倒錯的な関係にあるエリとホーカン。なんでもかんでも説明してしまう昨今の映画と違って、観客の想像力に委ねる部分が多い「ぼくのエリ」。ある部分ではそういうスタイルに賛成するけれど、かといってまったく描かないのもやや問題があると思う。映画は文字通り“画(え)”で語るものだから、そういった倒錯的な関係を象徴するような映像を間接的にでも入れて欲しかった。
 
更に作品内で唯一ボカシが入る部分。エリが服を着替える際にオスカルがそれを覗く場面でエリの下半身が映るのですが、その場面でボカシが入ります。直接女性器が映ってる訳でもないのに、あのボカシは必要だったのかなあ?と、甚だ疑問でした。実はエリは男の子で、男性器を去勢している過去があるので、その傷が垣間見える....という部分だったのに、ボカシが入ってしまったため、その意味が解りづらくなっています。確かに少女(少年!?)の下半身というすごくデリケートな部分ではありますが、物語を考慮してもあのボカシは必要なかったと感じました。
 
そして、グロについて。
映画ではばっさりカットされていましたが、原作ではオスカルの近所に住むトンミという少年が出てきます。オスカルにとっては兄のような存在で、そんなトンミがふとしたことで、ゾンビと化したホーカンと閉じ込められた地下室で対決する場面があります。原作を読んでいてもハラハラドキドキする場面で、正に映画向きなシーンだなと期待していたのですが、映画ではその部分がばっさりカットしてあり、とても残念でした。
 
【ヴァンパイアというもの】
原作のエリとイメージぴったり!だったリーナ・レアンデション。しかしながら映画版で彼女がいかにもヴァンパイア!というような姿を見せることはほとんどありません。口をガバッと開けて牙を見せる....といった吸血鬼ものの定番的映像すらありません。これは単に予算の関係なのか?、はたまたスウェーデン映画界がそういったSFXビジュアル部門が未熟なせいなのか?、或いは最初からそういう演出スタイルでいこうとしてたのか?、とにかく徹底してエリのヴァンパイア的姿は一切なかった。確かに安っぽいCGデジタル映像を見せられて興ざめするくらいなら、逆に何も見せない方がいいとも思うけど、ヴァンパイア好きとしてはそれはやはり少しさみしい。原作では数こそ少ないものの、エリが“ヴァンパイアらしき”姿に変身する場面があるのだし、もう少しそういうアプローチを見せてくれても良かったのではないだろうか?。「ヴァン・ヘルシング」のドラキュラ伯爵くらい!とまでは言わないにしても、すこしはそういう異形の姿を見たかった!。
 

【まとめ】 
映画「ぼくのエリ 200歳の少女」は、一概にホラーとは呼べないタイプの映画でした。
いじめられっ子少年オスカルとヴァンパイア少女のエリの切なくも残酷なラブストーリーとしてはそれなりに見応えがありましたが、ホラー映画としてはやはり物足りなさも感じてしまいました。映画を見終わって感じたなんとも言えないモヤモヤ感。「この感覚は何だろう?」と思っていたらハッと気がつきました。そう、それはまるでスウェーデン生まれの家具メーカー「IKEA」の家具のようだと。イケアの家具のように“綺麗にまとまってはいるけど、突出した個性もない”そんな印象を受けた映画でした。ただし、普段アメリカ映画ばかり見ているオイラにとっては、ある意味新鮮な体験でもありました。
原作の魅力でもあったエロ・グロ感を削ぎ落としたことで、詩的な映像や子供たちの演技だけが印象に残った今作。なんだか違いのわかる(と思っている)おしゃれな映画好きOLに好かれそうな映画になってしまったのが、何とも言えない複雑な気分です。そんな風に感じた女性の方には、是非原作本を読まれることをお薦めします。映画に対する印象もまた違ったものになると思いますよ(^皿^)。
 


血の渇きに耐えきれず、エリは自ら“狩り”をすることにする。
木の上で“獲物”が通りかかるのをじっと待つエリ。その不幸な餌食となったのは、ラッケの恋人〜ヴァルキニアだった....
       エリ.jpg
 
 
 
【おまけ】
映画を見終わってロビーに出ると、そこに俳優の平田満さんがいた。どうやら次の回を鑑賞されるようだ。「蒲田行進曲」世代のオイラは思わず心の中でこう叫ぶのだった....
「銀ちゃん、かっこいい〜!」
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。