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ピリ辛!風味のファンタジー〜「かいじゅうたちのいるところ」を見る [映画鑑賞]

2010年最初の映画鑑賞に選んだ作品は「かいじゅうたちのいるところ」。
モーリス・センダックによる世界的ベストセラー絵本「かいじゅうたちのいるところ」を、「マルコヴィッチの穴」などで知られる奇才スパイク・ジョーンズが実写映画化。公開前からそのアーティスティックな映像があちらこちらで話題となっており、オイラも昨年から非常に楽しみにしていた作品です。とは言え、個性的な作風で知られるスパイク・ジョーンズのこと、絵本が原作とは言え、きっと一筋縄ではいかない作品に仕上がってるんだろうなあ. . . と、ある種の覚悟を決めて劇場に向かったのであります(^皿^)。
 
【あらすじ】
マックス少年は母と姉の三人暮らし。近頃思春期を迎えた姉は以前のようには遊んでくれなくなっており、大好きな母親もまた仕事に追われる日々で、こちらも以前のようにかまってはくれなくなっていた。「こんな時にパパがいてくれたなら . . . 」寂しさが日に日に増していくマックス。
そんなある日、遂にマックスの癇癪が爆発!、母親と大ゲンカしたマックスはそのまま家を飛び出した!。走りに走って気がつけばそこは見知らぬ海岸、停泊していた一艘の船に勢い乗り込むと、マックスは大海原へと飛び出した。そして、ひとつの島に辿り着いた。そこはかいじゅうたちが暮らす場所、そこでマックスはかいじゅうたちの王として君臨することになるのだがが . . .
 
 
物語的には至って単純です。母親と喧嘩して家出→かいじゅうたちのいる島(自分の殻)に逃避→いろいろあった後、島(自分の殻)から脱出→帰宅して母親と仲直り . . . 以上。ただそれだけの物語です(^皿^;)。
好意的な目で見れば、簡素な絵本の物語をよくぞここまで上手く脚色して映画用に仕上げたなと思うし、そういった意味では原作物映画としては数少ない成功例であると言えます。
映画冒頭で描かれるマックス少年の日常が、丁寧な描写で好感が持てます。例えば姉と遊んでもらえないマックスの寂しさには、兄弟姉妹で育ったことのある方なら誰もが共感を覚えるだろうし、ひとりで遊ぶ時の楽しさと寂しさが入り交じったなんともいえない雰囲気の描写などは、実に見事です。誰しもが実体験として記憶の中にあるはずの光景。スパイク・ジョーンズ監督の繊細で優しい目線が嬉しい。
その一方で、ある種の退屈さが漂っているのもまた事実です。もちろんそれは仕方のない事で、元々が短い絵本な訳ですから、それを長編作品にした場合、どうしたってそういう部分は出てくるものだと思います。ただしその部分がつまらないのか?と言えば、そういう訳ではありません。ロケーションを多様した美しい映像は一見の価値があるし、何よりファンタジー世界としてのリアリティがあります。うっそうとした木が生い茂る森や、激しい波が打ち付ける海岸線、果てしなく続く砂漠であったりと、自然光をうまく取り入れた美麗な映像にはぐいぐい引き込まれます。
 
しかし、この映画は奇才と呼ばれるスパイク・ジョーンズ作品。このまま美しい映像のみでほのぼのと終わるはずもありません。やがて物語の歯車は少しづつ狂い始めていきます。かいじゅうたちの王様として楽しい日々を暮らすマックスでしたが、そんな幸せな時間は長く続きません。一部のかいじゅうたちからマックスに対する不満が沸き上がり、その疑心暗鬼はやがてかいじゅうたち同士の衝突へと発展していきます。そして遂にマックスの正体がバレてしまいます。「彼は王様などではない、普通の人間なんだよ」そう語るダグラス(鳥の顔をしたかいじゅう)の言葉が信じられないキャロル。「俺たちを苦しみや悩みから解放してくれるはずじゃなかったのかッ!?」キャロルは傷つき、悲しみ、それはやがて抑えきれない激しい怒りへと変わります。
「あいつを喰ってやるッ!」
. . . それまでののどかな情景から一転してホラー映画さながらの恐怖シーンへと変貌する物語。ファンタジー世界にあっても、そこで現実世界と同じような厳しい状況におかれるマックス。小さなコミュニティでの人間(かいじゅう!?)関係に悩み、傷つき、そしてちょっとだけ心が成長したマックスはこの地を離れる事を決心、皆に別れを告げ、島をあとにするのでした。
 
マックスが一番親しくなるかいじゅう・キャロルは、言うなればマックスの写し鏡的な存在。だからこそマックスは彼の行動に一番親近感を覚えるし、また恐怖もします。まだ幼く自分自身を客観視出来ないマックス少年は、キャロルを通して自分自身を見つめ直すことになる . . . なるほど、これはとても“子供向けファンタジー”などではなく、れっきとした大人のためのファンタジーなのだと痛感させられました。
 
個人的にすごく琴線に触れるシーンがありました。
それはマックスの提案で“戦争ごっこ”と呼ばれる遊びを皆で繰り広げる場面です。“良いチーム”“悪いチーム”の2チームに別れて泥の玉を投げあうマックスたち。マックスによって“悪いチーム”に仕分けされたアレクサンダー(山羊の顔をしたヤツ)は、そのことが気に入りません。しかも不意打ちにあい、頭をケガするほどの玉を投げつけられる。もはや半ベソ状態のアレクサンダーは「ヒドイよ!」と、その場から去っていきます . . . (1抜けた〜状態)。
この場面、かつてオイラが子供時代に正に経験したことのある光景そのままだったのです。
皆さんも子供の頃にそんな経験をした覚えはないですか?。遊びだったはずのゲームが徐々に熱を帯び始め、やがてケンカへと発展する . . . そんな子供時代の懐かしい風景を、まさかこの映画で見られるとは思ってもいませんでした。
そんなアレクサンダーがマックスに向かって「君は本当は王様じゃないんだろ?、知っていたさ」と語る場面での彼の悲しそうな眼差しがたまりませんでした。
 
 
映画を見ていて、ふと気になったことがあるのですが. . .
それは、マックスにしろ、かいじゅうたちにしろ、一度も食事のシーンがないこと。“かいじゅうたちのいるところ”は、言うなればマックスの“脳内世界”なので、別に食事をしようがしまいが、生活としては別に支障はない訳だけど。
ただ、キャロルがあのでかい口でバクバク物を食べるシーンが実際にあれば、後にマックスへと向けられる怒りの際に発せられる言葉「お前を食べてやる!」のリアリティや恐怖感がより倍増したと思うんだけどな。うーん、なぜだろう? . . . スパイク・ジョーンズ監督はマックスやかいじゅうたちが食事をするシーンを、意図的に削除したのだろうか?。その俚由(わけ)は . . . !?。凡人のオイラには、わかりませんッ(^皿^;)。 
 
  
とても個人的な感想になって恐縮ですが、この作品は決して万人にお薦め出来るような映画ではないと思います。見終わった後にとりたててものすごい感動が待っている訳でもないし、宣伝で醸し出されてるような癒しがある訳でもありません。もちろん子供向けファンタジーなどでは決してありません。
オイラの場合は思いがけずノスタルジックな場面に遭遇して、少しだけ心地良い感傷的な気分を味わうことが出来ました。成長の過程には多かれ少なかれ必ず痛みが伴う . . . 過去に経験してきたそんな懐かしい気分を味わいたい方は、是非劇場でご覧下さい(^皿^)。
(次回記事では恒例の日本語吹き替え版について、ちょっとだけ語ろうと思っています)
 
 
    ここにも“大人になりきれない”おじさんが、ひとり . . . (^皿^)
    キャロルの着ぐるみ.jpg 
 
来月にはいよいよ待望の「コララインとボタンの魔女」が公開される!...楽しみ♪
「ジャイアント・ピーチ」と「モンキー・ボーン」を復習しておきますか(^皿^)
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ジジョ

大人なファンタジーでしたね〜☆
食事のシーン。
「現実」に戻った感じがして、ドキっとしました。
個人的には、すごくイイ演出だった気がします。
実際、監督はどういう意図だったんでしょうね〜。
by ジジョ (2010-01-24 21:28) 

堀越ヨッシー

ジジョさん、こんにちは。
なるほど、確かにそういう見方も出来ますね!。
 
かいじゅうのデザインとか、美術とか、個人的にはすごくツボにハマった作品でした。とにかく健気なアレクサンダーに、ひと目惚れです♪(^皿^)。
by 堀越ヨッシー (2010-01-25 11:11) 

dorothy

観てきました〜!
もじゃもじゃスキだけど砂まみれはちょっとなー、
でも私も重なって寝たいなーとか思ってたら怖い展開にドキドキ、
そしてお別れのシーンでボロ泣きしてしまいました・・・ううっ。

私も食事シーンがないのは意図的だと思いました。
というか子どもって遊びに夢中だと食事忘れたりとかするし。
かいじゅうと一緒の時何も食べなかったかわりのあのラストシーンだと思いました。
by dorothy (2010-01-26 00:18) 

堀越ヨッシー

dorothyさん、こんにちは。
女性陣には、あの“もふもふ”感が人気なようですね。確かにアレは温かそうですが、野生だけに臭いも相当キツそうです(^皿^)。
 
やはり、【食事=現実(リアル)世界】ということなのでしょうか?。確かに食欲って生物の持つ三欲のうちのひとつですからね。ふむふむ ... そう考えると食卓という空間は、とっても大事な場所なのですね。
恐らくこの映画、少年時代を過ごしてきた男性と少女時代を過ごしてきた女性とでは、物語から受ける感じ方が若干違うのかもしれません。そういった意味でも、dorothyさんのレビューを楽しみにしています♪。
by 堀越ヨッシー (2010-01-26 18:02) 

うつぼ

王様のブランチのインタビューで、かいじゅうたちが全然モフモフしてなくて
しかも80日間の撮影で終盤は臭ってた、なんてことを監督と主人公の男子が
笑いながら言っていたのを思い出しました。(^_^;)
いつも単純明快で深く考えないで済む映画ばかり選んでいますが
たまにはこういうハッピーハッピーだけでない映画も見ようかな、と思いました。
by うつぼ (2010-01-26 22:15) 

堀越ヨッシー

うつぼさん、こんにちは。
オイラはジム・ヘンソンが大好きなので、顔がCG製だったとはいえ、かいじゅうたちの佇まいにはグッとくるものがありました。アートなんて言葉は使いたくありませんが、やはり作家性が強く前面に押し出された個性的な作品だとは思いましたね。劇場で観ても決して損はない作品だと思います。機会があれば、是非!(^皿^)。
by 堀越ヨッシー (2010-01-27 17:36) 

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